
始めに
ヒッコリーゴルフとはシャフトがクルミ科の木、ヒッコリーで造られたゴルフクラブで行うゴルフの事であります。
ヒッコリーは一般木材の中で優れた弾力性と硬さがあった為、1820年代にスコットランドのゴルフ界に登場してから従来のシャフト材であるトネリコや果樹材を押しのけ、1920年代後半のスチールシャフトの登場までゴルフクラブシャフトの最適素材として君臨し、スチールシャフトが一般的になってきた1930年代に入っても、そのタッチを好む者は世界的なプレーヤーから一般ゴルファーまで少なからぬ数がいました。
その後ヒッコリーのクラブは過去のものになりましたが、当時を懐かしむオールドタイマーや、ゴルフコレクター達によるヒッコリーゴルフのイベントが1970年代から始まり、2000年代からインターネットの発達により情報発信や団体活動が盛んに行われる様になり、現在では我が国をはじめ世界各国で団体が結成され、イベント・大会が開催される“もう一つのゴルフ”として注目がなされています。
現代のヒッコリーゴルフは1935年以前に造られたオリジナルのヒッコリークラブや、当時のクラブをマスターモデルとして復刻した新作のヒッコリークラブを使いプレーがされています。
※このほか1900年以前の張り合わせネックのウッドに、溝なしアイアンとガッタパーチャボールで行うもう一つのスタイルもありますが、ここでは上記の1910~1935年代のクラブによるヒッコリーゴルフを紹介します
名手ボビー・ジョーンズ
1930年にヒッコリーシャフトのクラブでグランドスラムを達成したボビー・ジョーンズは、完璧なリズムとバランスを持っており、これまでで最も素晴らしいヒッコリーゴルファーでした。
彼のドライバーショットにおけるヘッドスピードは秒速約50.5m、平均飛距離は約250-260ヤードでした。彼はロングヒッターの一人でしたが、ショートゲームにも強かったのでゲーム全般において素晴らしいプレーヤーでありました。
ショートゲームがスコアの決め手になることは皆さんもご存知ですが、ヒッコリーゴルフをする時も忘れないでください!たとえボールを遠くに飛ばせなくても、勝てるチャンスがあります。
クラブの構造―ウッドクラブ―
ヒッコリークラブの構造は現代のクラブに慣れた方々にはウッドとアイアン共に全く違う物に感じることでしょう。
まずウッドクラブをご覧ください。“ウッド”の名の通り木製のヘッドは楓、ブナ、パーシモン(柿の木)から造られ、現代のウッドクラブと比べて小さく、古めかしい見た目や感じがするかもしれません。 ヘッドには大抵の場合クラブメーカーの名前や、プロゴルファーの名前と彼が所属していたコース名が刻印してあり、物によってはヘッドのセンターアライメントとして色の塗分けがしています。
ウッドクラブはオリジナルクラブには基本としてドライバー(5~12度)、ブラッシー(15度前後)、スプーン(20度前後)の三種があり、その他エキストラクラブとして数種類のヘッドの形状の違う、スプーンと同じくらいのロフトのウッドがあります。
ドライバーは主にソールのリーディングエッヂ側に羊の角や樹脂の板のみが取り付けられており、ブラッシー以下のクラブにはエッヂガードの他に名前の元となった真鍮版がソールにネジで取り付けられています。
また、ヒッコリー末期のクラブや大手メーカーの製品には、ソールにクラブの番手を示すニックネームが刻印されていますが、個人の作などには何も刻印されていないので、上記のロフトを目安に何のクラブであるかを確認することに成ります。
なお、復刻クラブは全体的にオリジナルよりもロフトがすこし少なめで、番手ごとにヘッドが小さくなっており。St.アンドリュース・ゴルフカンパニーでは一番長いブラッシーが12~13度でスプーン、バフィと続き、タッド・モアではドライバーが11~12度でスプーン、クリークと番手が続いています。
クラブの構造―アイアンクラブー
次にアイアンクラブをチェックしてみましょう。
皆さんはこのクラブ達を目にした際に現代の物と比べて、殆どのヘッドが平らなバックフェースであることに驚かれるやもしれません。
ヘッドは鍛造鉄で造られており、ウッド同様メーカーの名と商標を示す絵柄や、ヘッドを発注したプロゴルファーの名前と所属コース名、そして番手を表すニックネームが刻印されています。
フェースには現代のクラブの様なスコアラインや、ドットパンチ、両者と中間的なハイフン・ダッシュ型の溝などが刻まれています。
ここでもう一つ注目することは、今のアイアンよりも該当番手のロフトが大きい事や、
フェースの形状が、現代のアイアンに近い物と、フェースプログレッションの大きな、いわゆる“出っ刃”の2タイプの形状がある事です。
これについて、前者はボールを潰す“ダウンブロー”に打ちやすく、後者はカットショットなどのコントロールショットが打ちやすい形状であります
復刻クラブではSt.アンドリュース・ゴルフカンパニーのアイアンの形状は、トム・スチュアートモデルは前者、ジョージ・ニコルモデルは後者と、それぞれ二つのタイプの特徴を表しています。
またタッド・モアの復刻クラブ、スターOAモデルは前者の形状かつ厚目のフランジソールでラフからのショットに効果を発揮します
多くのオリジナルクラブはプロラインと呼ばれる、プレーヤーがプロゴルファーにシャフトのフレックスや長さを合ったセットを組み立てて貰っていました。
復刻クラブも番手ごとにショットがしやすいようマッチドセットとして造られています。
クラブの構造―シャフトとグリップ―
シャフトはヒッコリー材で造られており、ウッドはネックに差し込み式で接着され、接合部に衝撃や捻じれの防止に蠟引きの麻糸が巻かれ、アイアンはリベットで固定され(オリジナルのレストア品や復刻クラブには接着剤も使用されています)、ウッドと同じ対策として接合部上部のシャフトが八の字型に成型されています
グリップは帯状にカットした子牛の革がクラブの手元に巻かれ、両面式のフリクションテープ(ゴム糊が引かれた半粘着の布テープで、現代のヒッコリーゴルフでは下巻として重宝されています)の下巻に固定され、鋲と蝋引きの麻糸がグリップとシャフトの間の端止めに使われています。
グリップについては未レストアのオリジナルクラブでは革の鞣した面が使われていますが、レストア品や復刻クラブにはバックスキン(スウェード)の面や、グリップ用のオイルレザーが使われ、握った際に滑らず、手になじむ様になっています。
クラブの感じを掴もう
ヒッコリークラブを手に取られて、ボールを打つ前に最初にすることは、グリップをし、ワッグルや素振りをしてクラブの感じを掴むことです。
グリップをされましたら、まずその重さを感じてみてください。通常ヒッコリークラブは現代のクラブに比べると重いのですが、クラブを軽く握り、ワッグルや小さく振ってみるとクラブの感じがつかめるはずです。スウィングの練習をする時は軽く握り、振り切るまでクラブヘッドの重さを感じてみてください。
ヒッコリークラブはシャフトの捻じれやしなりが強いので、スウィングが今の物とは違ってハンドアクションを大きくしていた、という話を耳にされた方もいるかもしれません。
確かに現在のクラブのシャフトに比べ、ヒッコリーシャフトは捻じれが大きく、硬さがあるのにしなりを感じやすいです。
そして、ヒッコリー時代の名手たちは様々な形のスウィングをしていましたが、現代のプレーヤーとほとんど変わらないフォームの者たちも多く居ました。
なのであまりヒッコリーゴルフでのスウィングを複雑に考えないでください。滑らかにリズムよく振り、クラブのスウィートスポットでヒットを出来れば綺麗な球筋でボールは飛んでくれるでしょう。
気持ちよくスウィングが出来るリズムやタイミングが有りますので、クラブの声を聴いてあげて下さい。
ウッドクラブを打ってみよう
まずはティショットから始めましょう。プレーに使うヒッコリーゴルフ用のセットのウッドは、先述の通りロフトがある事と、現代のクラブよりヘッドがシャロ―フェースで、シャフトの長さも短いので、ドライバーというよりはフェアウェイウッドと考えてお使い頂けたら良いと思います。
ですのでティーは低めにして、現代の3番ウッドか5番ウッドでティショットを打つようにスウィングすると良い結果が出ることでしょう。
今のクラブに比べると頼りなく感じるやもしれませんが、ヒッコリークラブをおもちゃなんて思わないでください!逆にこのクラブを使って200ヤードを超える素晴らしいショットを打つことができるでしょう。
ティショット以外ではフェアウェイの良いライや、ラフの短いところからウッドを使っていただけますが、深いラフからの脱出にはマッシーからニブリックのアイアンクラブを使うことをお勧めします。
アイアンクラブを打つ前に―番手の紹介―
アイアンクラブは現代の様に番号が刻まれるようになったのは1920年代半ばのアメリカからで、それまで・あるいは英国ではヒッコリーの末期まで各番手はニックネームで呼ばれていました。
それらのニックネームは10種類ほどありますが、セットの基本は下で紹介するミッドアイアン、マッシー、マッシーニブリック、ニブリックの4本で、後に2・5・7・9番アイアンの名前で呼ばれ、これで様々な距離を打ち分けていました。
(現在はアイアンのストロングロフト化によって齟齬が生じ出しているため、個別の紹介文のように2番手ほど小さく換算しています)
現代のセット本数に慣れていると不便に感じるやもしれませんが、自分の思い通りのショットが打てた時には、ヒッコリーゴルフの愉しさと醍醐味を感じることでしょう。
ミッドアイアン、ミッドマッシーを打つ
ミッドアイアンは基本のセットの中では一番ロフトの小さいアイア
ミッドマッシーはミッドアイアンの一つ下のクラブで3番アイアンに該当し、ロフトが27-28度とミッドアイアンより少し多く、現在の5番アイアンと同じくらいです。
St.アンドリュース・ゴルフカンパニーの復刻版トム・スチュアートおよび新モデルのジョージ・ニコルアイアンでは一番長い番手となっています。
両クラブとも、一般プレーヤーには160-180ヤードの距離を打つのに使えますが、無理にボールを空中に上げようとするよりも、低い球で150ヤード先へ運ぶイメージでヒットする方が、このクラブの感じを掴み、上手く扱えることでしょう。まずはお試しください。
マッシーを打つ
これはヒッコリーゴルフにおける主力クラブです。ロフトは35度前後で現代の6-7番アイアンに相当します、。飛距離は一般プレーヤーが、なめらかなフルスウィングをして150ヤードほど。このクラブはグリーン回りの『チップ&ラン』にとても良いクラブです。パターを打つようにこのクラブを使い、どのような結果が出るかをご覧ください。
このクラブはフェアウェイでボールをグリーンに向かって打つ際や、ラフの良いライから出す時にお勧めです。普通は良く飛んでくれるので、フェアウェイでボールを打つ時に頼れるクラブです。他のクラブがうまく当たらなくて困っている方は、マッシーを使ってみてください。きっと貴方の助けになってくれるでしょう。
マッシーニブリックを打つ
開けたグリーンに向かってアプローチを打ちたい時に使うと良いクラブです。ロフトは約45度(8-9番アイアンと同等)で、100-125ヤードから使うのに良いクラブです。ピン 手前に落としてランで寄せるアプローチなどを打ちやすいクラブで、オリジナルクラブの場合はヘッドが小ぶりで肉厚なものが多いことと、元々アプローチクラブとして造られていたため、アプローチにニブリックよりも重宝する方もいます。
復刻クラブはマッチドセットで造られているので、上記のフルショットやピッチエンドランに適しています。
ニブリックを打つ
ニブリックは短い距離を賄う現代のウェッジに同等のクラブで、ロフトは50~55度位になり、飛距離は飛ばす方で100ヤードほどです。このクラブはグリーンまわりからの高めのピッチショット、キャリーが必要なアプローチ、そしてバンカーショットに使用するのをお勧めします。
ニブリックはオリジナルの場合、通常大きなヘッドをしているので、芝の薄いライからの扱いが少し難しいです。またリーディングエッヂの出たシャモジの様なフェースの物が多いので、慣れないと地面を噛んでしまうミスが出やすく。短いアプローチや繊細なショット、バンカーショットなどにはコツがいります。
アプローチではそのまま打つだけでなく、フェースを開いてみたり、ボールの根元を斜めに刈り取るイメージで打つ、カットショットなどを行うのもよい結果をもたらすでしょう。
復刻クラブの場合、厚目のソールのヘッドをコピーしているものが多いので、現在のウエッジと同じかそれに近い打ち方でショットができ、特にバンカーショットではオリジナルクラブよりも強みを持っています。
間のクラブたち
上記でヒッコリーゴルフの基本セットとなる4本のアイアンクラブを紹介しましたが、オリジナルのアイアンにはこの他に、一番長いクリークないしドライビングアイアン。ミッドアイアン(ミッドマッシー)とマッシーの間のマッシーアイアンもしくはディープフェースマッシー。マッシーとマッシーニブリックの間のスペードマッシーと、マッシーニブリックとニブリックの間のピッチングニブリック等があり、これらは後に1・4・6・8番アイアンになりました。
弊社取り扱いの復刻クラブ、タッド・モア、スターOAモデルのアイアンセットは、これらの基本クラブの間に入るアイアンが組み込まれており、ディープフェースマッシー、マッシー、スペードマッシー、マッシーニブリック、ニブリックの5本で構成されています。
またSt.アンドリュースゴルフカンパニーも、ピッチングニブリックやドライビングアイアン等を特注で取り扱っておりますので、お求めの際は弊社にご用命ください。
パター
ヒッコリークラブのパターには様々な種類がありますが、基本のL字型ブレードパターはアイアンクラブの様に見える事でしょう。
ブレードパターはアイアン同様鍛造の鉄で造られており、スウィートスポットでヒットしたときの感触は素晴らしいものがあります。
このほか、ウッドパターやそれを基にしたアルミマレット、T字パターの初期モデルなどが存在し、復刻クラブは有名なモデルのブレードパターや、オリジナルでは良いコンディションの少ない非ブレード型パターが造られています。
オリジナルクラブのパターや復刻パターには現代のパターに比べ、グリップが細目で軽いウェイトの物がありますが、吊るす感じで軽くグリップをすると良いフィーリングを掴めることでしょう。
オリジナルのブレードパターは、芝が長かった当時のグリーンに対応するため、約10~14度と多めのロフトがついている物が多く、ロフトの少ない現代のパターの様に打つとボールがジャンプしてパッティングのコントロールが上手く行かない事があるので、アイアン同様ダウンブローでパットをするか、ロフトを殺してパットをすると安定した転がりとなります。
またこのロフトが、ライの良いグリーン周りからのアプローチに効果を発揮します。
なお、復刻パターはほとんどが現代のパターと同程度のロフトになっているので、同じ感覚で打てることでしょう。
ヒッコリーパターのバランスと感覚に慣れるまでに数週間のお時間がかかるかもしれませんが、一度慣れてしまうと現代のパターに戻すのが難しく感じることでしょう。
※以上の文章はクリス・マッキンタイア著『Guide to Hickory Golf Play(英文)』を基に日本のヒッコリーゴルフを始められる方向けに大幅な加筆編集をしたものであります